蜘蛛の巣
1ヶ月くらい前に家のベランダの隅に小さな蜘蛛の巣ができていることに気づいた。
蜘蛛は益虫ってよく聞くし、サイズ感も小さくて可愛かったのでしばらく放っておいた。
2週間前、洗濯物を取り込む時に迂闊にも一部を壊してしまった。ごめんよ、この時はわざとじゃなかったんだ。けれど、次の日にもう一度見ると巣は綺麗に直って被害者は呑気に平和な日向ぼっこをしていた。
この時、自分の中の悪魔が囁く。「じゃあ、全壊させたらどうするのさ」。普段から実験を繰り返す毎日にいると考えると自然な考えだったとは思うが、我ながら残酷である。という訳で今度は巣を全壊させた。ごめんよ、この時はわざとだよ。次の日、蜘蛛はいなくなっていた。そこから数日、遠出とかでベランダを開けなかった。
1週間前、久しぶりの外干し。ベランダを見ると少しだけ見えづらい位置に蜘蛛の巣ができていた。どうもあの小さな被害者に見える。同一の個体だとすれば、こいつはより安全だと思った場所に作り直したのか、だとしたら蜘蛛って実は賢いのではと思って調べた。どうやら蜘蛛の体は身体サイズに対して脳がとても大きく、モノによっては脚の内部まで中枢神経系がはみ出しているらしい。
蜘蛛が賢いことはわかったが、ならば何故巣をほぼ同じ場所でより安全(自分目線だけど)な場所に作ったのか。いや、作れたのか。まあテキトーに同じ場所でいいっしょって考える能天気の可能性もあるが、それだと失礼な気もするのでちゃんと考えたって程で考察する。
蜘蛛は全壊の次の日には姿を見せなかった。建設途中でもなかったことが確認されている。つまり、1日以上建設までにタイムラグがある。この期間に自分の縄張りにより相応しい場所を探したのではないか。さらにその結果、今までの場所がベストだと判断して微妙に手の届きにくい場所に再建している。つまり、蜘蛛も住処に必要な要素について定量的な判断ができ、実際に有効性が加害者によって証明されている。
蜘蛛は習性として同じ場所に巣を作ろうとするらしい。これは、巣を作る行為を考えれば自然な気はする。問題は微妙に手が届きにくい場所に変化したところである。もう一度、場所をよく見るとはじめに半壊させた側より奥に移動している。なるほど、敵の攻撃範囲を学習したのか。一度の結果からちゃんと学習するなんて下手すると人間もできてないぞ。見習いたいところである。
AIを専攻している者としては考えるのは一度の学習から学ぶというのは非常に難しいことである。AIってなんでもできるように語られがちではあるが、その実この蜘蛛のした思考の再現は難しい。一度の学習ではデータが不足しているからである。AIもまだまだ虫以下なのかもしれない。(本能というモノが種として生きるための膨大な学習の結果なのかもしれないが。)
この蜘蛛であるが、実はもういない。調子に乗って洗濯物にまで巣を広げようとしたので、制裁を下した。汝、住居水流しの刑である。生きていたら他の場所でほとんど脳のその体で頑張れよ。